01

捨て猫みたいだな、、と思った。
なぜだか、わからない。
でも、捨て猫を見た人がつい思いたくなるように、
僕も、やつを連れて帰りたくなったのは確かだ。
そうして、やつは僕の部屋に住みつくようになった。
捨て猫がそうするみたいに、、。

人は答えを見つけると、それ以上答えの探索をしなくなる。
たとえ正解と思っていたものが間違いであっても。

僕たちは、多くの時間をSEXをして過ごした。
やつはいつも部屋にいるわけじゃなかった。
むしろ、いないときのほうが多かった。
でも、いるときは当然のようにいた。
そして、SEXをした。
何度も何時間も僕たちは愛し合った。
不思議と、やつとSEXするときだけは、何度射精しても
ザーメンが尽きることはなかった。

僕の部屋の窓に、隣の壁とのわずかな隙間から朝日が差すころ、
僕たちのSEXはようやく終わった。
「たくさん出したねー。」と、
僕の使ったコンドームを並べて眺めながら、
やつはいつもうれしそうに言っていた。
まるで、子供がお年玉を並べて眺めるように。
髪が朝日に金色に映えて、とてもきれいだった。
僕はそんなやつの姿を見るのが好きだった。

ある日、いつものように出て行ったまま、やつは戻ってこなかった。
僕は心配したが、どうすることもできなかった。
猫の行き先を知っている者がいるだろうか?

やがて冬になった。
クリスマスが近い、ある穏やかな晴れた日の雑踏の中で、
やつに偶然再会した。
僕が気づく前に、やつのほうが僕に気づいていた。
やつは、ぼくが近づいてくるのをうれしそうな顔をして待っていた。
僕がやつに気づいたのがわかると、うれしそうに、ほんとに、うれしそうに
手を大きく何度も振った。

あの時、どうしてつれて帰らなかったのだろうか、と、その後、なんども考えた。

あの時、僕は、「よう!元気そうじゃないか!」という表情を精一杯浮かべ、
立ち止まりもせず、右手をさっと挙げてやつに答えた。

やつは、それを見て、満足そうに笑った。
やつは僕のことをほんとに好きだったんだということを確信した。
そして、僕もやつのことをほんとに好きだったんだということを。

一団の人並みがやつと僕の間を通り過ぎた後、
やつの姿は忽然と消えていた。

それ以来、やつの姿は僕の前から完全に消えた。


僕が間違いに気づいたのはそれから何年も経ってからのことだ。